「個人と法人の違い」法人設立で、それなりの苦労のし甲斐がある節税効果~結果としての節税あれこれ~
職域年金受給1年前となり、やっと「少しはラクになるかな」と、一息吐いています。サラリーマン大家→個人事業主→会社設立と、書けば順調に見えるものの、「いつもカツカツ」で生きてきた気がします。これまでの経験を、節税面から振り返ってみようと思います。

今回の記事では、下の方に個人事業と法人の違いを箇条書きで並べていますが、何のことはない、書き出してみればどこの本にも書いてあるような事柄です。でも、それを実感できるようになるまでに5年かかりました。ただ、試行錯誤の連続ではありましたが、マンネリ化を免れない側面を抱えながら勤め人として勤務先に留まるよりは、はるかに楽しい5年ではありました。(少なくとも筆者は。)
<08>どうしても「二足のわらじ」になるわけ
俗に言う「法人成り」という言葉があります。
これまで個人事業でやってきたが、規模が大きくなってきたので法人化する、という奴です。
一般には、信用度が増すとか、合資・合名・合同・株式のどれが有利とか、取締役がどうのとかいった話題になりがちです。
本コラムでは、あくまで「単独個人投資家」目線で述べていますので、家族を役員にして報酬(損金)発生とか、株式会社は取締役が3人だとかいった話とは無縁です。
ただ、一般的な事業では、この「法人成り」でそれまでの事業のほぼすべてを会社に移行するのですが、不動産賃貸事業では、元となる物件の取得が個人なのか法人なのかというスタート時点の問題が最後まで尾を引きます。
特にローンが残っている場合、元々金融機関が個人の属性と物件の担保力に対して融資したのに、
「今度会社作ることになったから、残債を会社に付け替えてくれ。」
と思っても、簡単に「はい、そうですか」とは応じてくれません。
個人の場合も、返済能力、収益見通し、他の物件も併せた事業規模など、総合的な判断で融資が実行されたわけです。同一人物の設立会社だからといって、それだけで信用してくれるほど甘くありません。
法「人」というからには、その会社がまだ新米のペーペーで、何の社会的信用も、完済能力があるかも、すべて未知数です。前回(第07回)記事で、
「筆者は現段階、自分の会社にスネをかじられている状態。」
という旨のことを書きましたが、親(代表者)の連帯保証人と担保価値で、やっと物件の購入資金借入ができている存在です。
従って、個人(事業)の借入が完済しなければ、物件を法人に移すべく譲渡もできませんし、法人(子)もある程度収益を貯めて、資金力を養ってからでないと事業の拡大ができません。
第04回で、ちょっと触れかけた、
> 奥さんを社長にプライベート・カンパニーを設立し~
などの手法も、配偶者の理解を得るまでには多難を極め、
「貴男いったい何考えてるの? そんな危ないものに手を出して!」
などとわめき散らす、「奥さんの説得から始めなければならない確率の低さ」があります。(笑)
では、最初から法人で事業を始めれば良かったのか? と言えば、これは元々地主系のポジションにある方とか、何らかの潤沢な資金があって(株でもFXでもいいのですが)、しかも「兼業禁止」などのネックにも引っかからない、というような恵まれたポジションを得た方でないと現実的ではありません。
世の中、第03回で述べたような「本業以外に500万円以上の収入は要承認」みたいな職場ばかりではないでしょうが、不特定多数の方がご覧になる本コラムのような場では、初めから恵まれたポジションにある方を前提に話を展開しても、
「なーに自分の懐具合をひけらかしてんだ、いけ好かない野郎だ!」
と思われるだけでしょう。
とすれば、地道に勉強して、経済的に少しでも不安のない老後を目指す小市民の不動産投資は、始めはせいぜい数千万円、それも借り入れ利用というのが相場となります。
出発点で「個人」がほぼ確定し、しかも長い年月の返済が残るということは、節税対策としての法人化に辿り着いたとしても、個人事業の立場は簡単に辞められず、どうしても二足のわらじになってしまうのです。
筆者は2016年に、それまで個人名義で持っていたワンルーム2戸を法人に移しました。コンサルタントの方に訊くと「大して効果は無い」と言われてしまいましたが、4・5年先の中期的な見通しもあって、
「どうせ、登記費用や司法書士報酬は経費になるし。」
と実行しました。(「中期的な見通し」は回を改めて書きます。)
すると、個人事業分の収入が減り、あまり経費を積み上げなくても課税所得の圧縮が達成でき、お蔭で6月段階で「年末時点の所得税見込み3~4千円」を実現しました。(第01回掲載図)
では、一方の法人は物件が増えて「収入増加・課税所得圧縮」に苦労しているかと言えば、個人が所有する物件よりも、法人所有資産の方が減価償却費が大きく取れている関係で、これまたあまり苦労せず節税を実現しています。
結果として、決算・申告は個人・法人の合計2回やらなきゃならないけれど、完全に2倍の苦労を抱えるわけではなく、それでいて「それなりの苦労のし甲斐がある節税効果」に辿り着いているような気がします。
その際、やはり「個人と法人の違い」が効いてるな、と実感することがいくつかあります。
1.減価償却が、個人は強制償却なのに対し、法人は任意償却。
2.2016. 3.31までに取得した設備機器は、法人であれば届出により定額法と定率法を切り替えることができる。
3.固定資産の譲渡で、個人は分離課税の計算になるが、法人は分離せずに収支計算できる。(ただし、その年度内での処理になるので、譲渡益が課税対象になる・ならないの判断は常に目を光らせる必要あり。)
4.個人にある固定資産の長期譲渡・短期譲渡に伴う譲渡税率(売却益が出た場合)の違いが法人には無い。
5.損益通算の個人の制限がなく、土地に係る借入金の赤字は泣く泣く捨てる、ということを回避できる。
6.青色欠損金の赤字を9年繰り越せる。(2017年赤字分からは10年)
他にもありますが、このくらいにしておきます。
そして、筆者の場合法人は3月決算にしているのですが、個人事業の12月末という定められた時点の状況により、その期末のズレで幾分の「融通」が利く場合がある、というのが二足のわらじでも苦労と思わない理由のひとつです。
例えば、個人・法人双方で不動産賃貸経営をしていますから、その関連本はどちらの立場で購入しても経費になります。(一冊しか買っていない=領収書は1枚しかない=のに両方で計上したらそれは二重計上でアウトです。)
12月の個人事業決算が済んでいる場合は、しばらくは法人で購入・経費化で落とす、ということもありますし、あるいは逆に、法人は4月から来期(次期)になりますから、そこそこに経費が積み上がっていて3月末の決算見通しが付いていれば、個人事業側で買うこともあります。
つまり、どちらの立場の経費になってもおかしくない支出を、どちらの立場で処理するかを選ぶことができます。
そうした工夫を楽しむ余地が生まれるなら、二足のわらじもアリかな、と思います。
公開日:2017年9月18日
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