班田収授法以来の土地税制感覚でサラリーマンの所得税を考えると、極めて日本的な源 泉徴収制度になる。~結果としての節税あれこれ~
職域年金受給1年前となり、やっと「少しはラクになるかな」と、一息吐いています。サラリーマン大家→個人事業主→会社設立と、書けば順調に見えるものの、「いつもカツカツ」で生きてきた気がします。これまでの経験を、節税面から振り返ってみようと思います。

残ったお金を貯金に回すのでは一向に貯まらない。先取りで強制貯金に回し、予め差し引かれた残額で毎月の生活を遣り繰りしなければ資産は築けない、と言われます。
では、徴税側にとって源泉税徴収制度というのは、先取り天引き貯金と同じ資金調達と言えるのでしょうか。
<29> 天引貯金と源泉税制度は同じか
ものごとには必ず二面性があり、
・良く言えば○○、悪く言えば××
・光の部分と闇の部分
・メリットとデメリット
・表と裏
・必要悪だけど結果オーライ
・清濁併せ呑む
など、比喩に使われる言葉はいくらでも思い浮かびます。
前回、親の敵のように源泉税徴収制度を槍玉に挙げましたが、攻撃するばかりでなく、「悪くはない」面も捜してみましょうか。
急な災害に対応する際の資金
今年(2018)のように、西日本豪雨(7月)、台風21号、北海道地震(8~9月)と天災が続くと、個人や小さな自治体レベルでは「日頃からの備え」にも限界があります。
「激甚災害に指定」という手続きがありますが、衛生状態の悪化で感染病が発生しないよう速やかな医療支援が必要、というような場合、税金が投入されることに文句を言う人はいないでしょう。
強制的にかっさらわれる所得税も、そういう使途に用いられるなら恐らく貧困というゾーンの人たちも納得してくれるでしょう。
・いつ起こるか分からない災害のために、貯金(先取天引)しておく
・住宅取得や結婚の準備として、貯金(先取天引)しておく
徴税担当者を置くことが雇用確保の側面を持っている
日本は、源泉徴収制度を維持するにあたって、事業所に徴税の作業を肩代わりさせています。事務担当者、経理部(課)などがあり、勤め人自身が関わるのは出張旅費の報告・精算や物品購入にあたっての予算会議にタッチする程度で、
・社員全員の通勤費集計・精算
・物品発注(額によっては相見積り取寄せ、入札の実施)、納品検品、備品登録、減価償却計算
などの会計上・税務上の処理はそれらの事務部門任せ。一般社員はその苦労を知ることもなく、分業で効率を上げる知識集約・労働集約産業を形成します。
そうした高度な仕事をこなす人間を、事業所の人件費で代行させているわけです。
従業員5人以上の事業所は社会保険強制加入などの制度を作り、漏れなく税を集められるようにしているわけですが、そのことは、ある程度余力があれば事務職員を雇わねばならない、という雇用状況を生みますから、日本全国では数百万人の雇用が確保されることにもなり、「悪くはない」側面と考えられます。
分業が進み、専門化が加速する
事業の遂行にあたって効率化ということを進めると、月並みな言い方しかできませんが、営業、渉外、開発研究、財務、人事、経理などと分担してコトにあたった方がスピーディです。
それぞれの分野にエキスパートも育つでしょう。その総合力で業績を伸ばし、生産性を上げ、成長する。
1970年代までの日本を彷彿とする構図ですね。
企業の成長シナリオと徴税・納税システムは関係ないように思えますが、長い(永い)経験で仕組まれていった、とも言えるのです。
ただ、冒頭に書いた二面性を、単純に白か黒かといった背反する価値観で捉えるのは今日的ではありません。
50年も前の安っぽい恋愛ドラマなら、
「私のこと好きなの? 嫌いなの?」
と問われて、
「嫌いじゃないけど……」
と生返事をすると、
「じゃ、好きなのね!」
となるのでしょうが、その背景には、当時の日本が見合いから恋愛に結婚観がシフトする過渡期で、日本の全家庭にTVが普及もしていなかった頃、男女が直接「好き」と伝え合う時代が到来した先進性をアピールしたに過ぎなかったりします。
Aという現状があり、ある日ふと疑問が生じる。not A とは思ってみるものの、選択肢はBもCもDもある。その可能性をいろいろ比較して、結果的にBに至る。
それが普通の姿であり、AじゃないからといっていきなりBとはなりません。
また、時代により、当事者の年齢により、かつてベストと思われた選択肢が、今となっては魅力を失い、色褪せて見えることだってあります。
日本が、失われた20年が30年にもなろうとして、旧態然とした体制から抜け出せないだの、未だに年功序列にしがみつているだの、いろいろと取り沙汰されます。
ただ、なぜかその議論は、新興のアップルは自社で工場など持たずに、という機動性のこととか、設計開発はアップルだけれど生産委託は全世界に、という話になりがちです。
ソニーやパナソニックが新しい発想に欠けるというなら、GEと比較しなければ同じ土俵の話にならないと思いますし、アップルと比べるなら、日本のベンチャーで同時代に起業したところと比較しなければならないでしょう。
ソニーやパナソニックがアップルになれるなれないという論じ方そのものが、未だに大企業信仰を引きずっている証拠です。
多大な投資コストをかけて生産ラインを作ってきた企業が、労働法に守られた従業員を容赦なくリストラして、アップル型の身軽な企業に生まれ変わるなど、スタートラインに遡って考えたらどうしたって無理な話です。
このサイトの読者にも想起しやすい例で言えば、ライオンズマンション(大京不動産)が余剰在庫を抱えるようになり、そのエントランスに有人の受付を置くスタイルが経費の重さにつながった例を考えればいいでしょうか。
やがて明和地所が身軽なデベロッパーとして分離独立し、しかしその内、同じようにアップアップし始めます。
土地や建物を抱えるということが、家電産業の生産ライン(工場)を持ってしまうということと同じです。
そこに勤める職工の雇用も面倒見なければならないとすれば、例えアップルの下請けに成り下がっても工場は稼働させる必要があるでしょう。
現物不動産投資における空室リスクとか立地要件などは、まさに「取得してしまった以上切り盛りするしかない」と考えれば分かり易いでしょうか。(だから最初の段階で物件選定の目利きが必要。)
不動産事業のように、20年とか30年を単位とした人口動態を見据えて資本投下すべきかを考える投資と、毎年のようにモデルチェンジを繰り返す電子機器開発の投資は、元々ちょっと違う性格を帯びていると思うのですが、なぜか「日本はGAFAが生まれる土壌にはほど遠い」とかいう論議になってしまうんですよね。(GAFA = Google, Apple, Facebook, Amazon)
目先のキャッシュフロー(つまり短期)と、100年と言われるような永続企業(別に個人商店だって構いませんが)を、単に収益を上げているかどうかだけで比較するのもどうかと思います。地味だけれど100年続いている企業は日本に数え切れないほど存在しますから、華々しいGAFAを追い求めるより、日本という風土や歴史に根付いた老舗をこそ、もっと研究するような事例が出てこないかと思う時があります。
いずれにせよ、現物不動産というのは、固定費を抱えるのと同じで、BSを圧迫します。労働法や雇用法に守られた人件費ですら長期的な固定費と言えます。
ところが、日本は1300年以上も昔の班田収受法以来、太閤検地でも、明治になっての農地自由化、戦後の農地開放など、姿形はさまざまですが、固定資産に基づく税制が基盤にあります。
その発想で人頭税的なサラリーマンの労働収入に徴税を考えるから、ある意味、源泉徴収制度というのは日本に「合っている」のかも知れません。
モンゴルの遊牧民のように、定住しない人たちを、日本に置き換えるなら、
「貴男は○○県で年間の内何日放牧に従事しましたか? △△県に居たのは何日ですか? じゃあ住民税は日数に応じて按分の上、双方の県に払って下さい。」
とでも計算するのかしら?
宇宙ステーションに半年滞在、なんて話がありますが、そこでの仕事はどこの国での収入になるのでしょうか? 静止衛星で日本の上空に居るんだから日本? NASAから出発したのならアメリカ?
日本では、やっとタックス・ヘイヴンが新書で解説されるようになった程度で、グローバル企業の納税回避など他人事のような話で受け止められます。
しかし、税金というものをちょっと勉強すると、その公平性だとか、妥当性だとかに目が行くようになります。
第<26>回で、
> 社会的にボランティアやフィランソロピーの精神が息づいているとか
ということにチラッと触れましたが、根底に開拓精神が流れるアメリカでは、そこそこの規模の街(City)でありながら、市長はボランティア、救急車を走らせる運転手もボランティア、というような町があります。
試しにネットで、
検索キーワード/アメリカ 市長 ボランティア
などと調べてみて下さい。
議会というものが市民生活と直結し、住民の声が反映され、当然税金の使途にも関心が高く、「お上の言いなり」にはならない風土があります。一方で「自治」意識も高く、「共助」の精神も流れる。
日本とは根本的に「違う」から、「国民の義務」などという押し付けは無いのです。
節税というと、いかに払わずに済ませるか、というセコい話が多いのですが、貯蓄も最後はいかに有効に使うかが目的であるように、税金もその使途や行方の納得が重要です。
北欧は税金が高いが社会保障も充実していると言われますが、市民社会を住民自らが全うするいう意識が背景にあります。
フランスは王政を倒した市民革命の過去があるからこそ、支配階級がのさばらないよう規制をかける、監視をする必要から、「国民の権利、国家の義務」なのであり、国民の義務にはならないわけです。
日本は、十七条憲法の昔から、国体も税制もすべて為政者側が進めました。この千年越しの根深い慣習はちっとやそっとで崩れるものではありません。
だからせめて、本来あるべき市民感覚を取り戻し、税についてもその行方や使い方に関心を持つくらいは、意識を持ち合わせたいと考えます。
(どこかから、毎日残業漬けじゃ議会を見に行くこともままならない、と聞こえてきそうですが、アメリカでは公聴しやすいように市議会を夜に開催なんてこともやっています。でも日本人は「そんなヒマがあったら家でTVを見たい」となるわけです。この「無関心」も千年かけて作られたもので、所詮素人集団である行政が、議員の得票に有利なように企業や業者の言いなりになったり、「内規に従って然るべき手続きは取りました」とか「住民の要望を吸い上げました」などの体裁を整え、結局はいいようにヤラれちゃう温床となっています。)
公開日:2018年10月31日
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