相続税と身代金 相続は「いつかはやってくる」が、「日頃からの準備」では追いつかない桁の支払いが突然やって来る~結果としての節税あれこれ~

職域年金受給1年前となり、やっと「少しはラクになるかな」と、一息吐いています。サラリーマン大家→個人事業主→会社設立と、書けば順調に見えるものの、「いつもカツカツ」で生きてきた気がします。これまでの経験を、節税面から振り返ってみようと思います。
物騒なタイトルを付けましたが、突然多額なお金が必要になる場合の象徴として喩えました。
事故に遭い、急に高額な医療費が必要になるとか、予期せぬ出費というものは有り得るわけですが、「日頃からの準備」では追っつかない桁の支払いが突然やって来る、というのが相続です。
3000万円の家ですら、何十年もローンの返済を組む庶民にとって、さらなる相続まで見越したマネージメントなど、殆ど不可能、と筆者は思いますが、ちょっとだけ考えてみたいと思います。
<33> 相続税と身代金
つい最近(2018秋)、筆者の住んでいる場所から100メートルも離れていない区画が売りに出されました。
まだ家が建っている時点で「売地」のチラシが舞い込み、駅からの時間、方位、広さ(坪数)、などから、どう考えても「○○さん宅」だよな、と思っていたら、ある日業者がやって来て家屋の解体が始まりました。そう言えば、家財をトラックで運び出していた場面を見かけたような気がします。
町会長さんに尋ねると、「お母さんが亡くなったので、土地を売って隣の地区に居るご親戚の近くに越すことになった」と聞きました。
実はその家のご主人(「お母さん」の息子さん)というのはもう70歳くらいの筈で、筆者も卒業した地元の小学校の同窓会役員さんでしたから、当然60年以上もその場所に住み続けていた方です。
他人のことをあれこれ詮索する気はありませんが、
・70歳になってからの引っ越しって大変だな
というのが最初に思ったこと。
亡くなったお母さんというのが地元の人だから、住み慣れた家を維持してきたが、ご主人自身は60年住んでいたとは言え、特に未練もない、ということだったのなら引っ越しも納得できます。
30年くらい前には、その「お母さん」は、自宅の一部屋を使って、地元の子どもたちに習字を教えていましたが、家の前を通っても子どもたちの声が聞こえなくなって久しいので、老人ホームにでも入っていたのだろうか? すると3000万円控除は使えないかな?
などと考えが巡り始めると、このコラムの読者には「何それ? そんな控除の制度があるの?」となるでしょうが、今回そのことに触れるつもりはありません。
筆者にとっては、目と鼻の先にある物件であるがゆえに、長年住み慣れた土地を継いでも、相続税を払うために売って自分は越していかなければならない、という現実を目の当たりにしたことの方が、「愕然」とも言える実感です。
本当は、チラシに記載された売出額や坪数も書いた方が、「相続って大変なんだ」という身に迫る実感が湧くのでしょうが、「100メートルも離れていない」と書いた手前、筆者の住んでいる場所の坪単価なども判ってしまうので、準個人情報的な扱いとして具体的な数字は伏せることにします。
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さて、相続は、「いつかはやってくる」と分かっている筈ですが、一般庶民は日々の住宅ローン返済や子どもの教育費に追われ、予め準備などできないのが普通です。
それなのに、被相続人の死後10ヵ月で、相続税を一括で払わなければならない。しかも、物納は殆ど認められず、猶予や延滞なども非常に条件が厳しい。
まるで、身代金を要求されたようなものです。
なぜ身代金と同じかというと、
「悪いねえ、犯人さん。年間100万円ずつ、10年で1000万円払うってことで手を打たないか?」
なんて合意は取り付けられないのと同じだからです。10年も余裕があったら犯人は捕まります。
何十年も前、坪2万円で購入した土地が、40年で坪100万円になったとする。50倍ですが、これが50坪の土地だったとすれば、購入価格100万円が、5000万円になったことになります。
40年前の100万円が、現在どれくらいの価値に相当するかは判断が難しいところですが、水道料金のような公共性の高いものは50年で6倍くらいでしょうか。仮に10年で2倍とすると、40年で16倍、100万円の土地が1600万円になったのなら、まあ納得の数字でしょうか。退職金がそのまま消えるくらいの額に納まります。
郊外の、通勤に2時間掛かった場所が、その後開発が進み、複々線化や地下鉄との相互乗入れなどで便利になり、地価も上がる。通勤も1時間ちょっとで済むようになった。
しかし土地は減価しないので、時価で評価される。現実は、親の世代、ようやっと手に入れた住宅地が、相続人にとっては、
「労せずに住まいを手に入れたんだから相応の対価を払え。」
とばかりに課税される、何とも理不尽な制度です。
一方、今の若い人たちは、非正規化が進んで、低所得者が増えている。結局、相続税など払えず、売らざるを得ない。
すると、高くなった地価でも買うことができる収入ゾーンの人が購入する。
結果、都心の億ションやタワー・マンションは超富裕層が、山手線の内側は富裕層が、23区部はその少し下の収入層が、という具合に色分けされていく。
まあ、三浦展氏の著書などを見ると、そう単純な図式ではないようですが、少なくとも、都心に何世代も前から住んでいる住人にとっては、
「相続が発生して手放したら、二度とここには帰って来られない。」
ほどのダメージを負います。
税の世界では有名な「小規模宅地の評価減の特例」すら焼け石に水、という場所も有り得ます。
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ところで、相続税がない国というのが存在します。シンガポール、ニュージーランド、インド、オーストラリア、カナダ、スウェーデン、マレージアといったところですが、この説明にはしばしば次の理屈が使われます。
生前、所得税(消費税も含む)を払った後の資金で築き上げた資産なのに、さらに相続税を取るとは何ごとか! 二重課税ではないか、けしからん! だから制度的におかしいから廃止する。
確かに理屈はそうかも知れません。しかし、一国の行政機関や自治体が、そうしたお利口な本筋論だけで制度をどうこうするとは思えません。
目先の収支・損得勘定に左右される要素の方が大きいでしょう。日本の場合は廃止など考えるべくもなく、
・団塊世代が後期高齢者になり医療費や社会保障がたいへんだ。
・でも2005年以降日本は人口減で生産年齢人口も減っていく。
・当然、税収の伸びは望めない。
「ほんじゃあ、ちょっくら相続税制度に手を加えて、増収を図るか。」
といった小手先の改正(悪)というわけです。
・低所得者が激増し、所得税の増収は見込めない。
・でも法人税は下をげねば、大口納税者の大企業が海外に逃げてしまう。
・じゃあ相続税を上げるかね。
ということかも知れません。しかし、それが功を奏するかどうかは、次のような先行事例もありますから、眉に唾付けて聴くべきでしょう。
https://digital.asahi.com/special/2012chaos/201207chaos_tax/issue2/contents2/page2.html
つまり、スウェーデンが2004年に相続税と贈与税を廃止したのは、スウェーデンで創業しながら、持ち株会社がオランダに移ってしまった家具メーカーのイケア、本社がスイスに移ってしまったテトラパックなどの例を教訓に、国に税収をもたらしてくれる企業が国外に逃げ出さないようにしたからだとされ、産業界も廃止を働きかけたと言います。
当然日本も、税収が不足、だから相続税を上げる、しかし皮肉にも国力が落ちる、という図式は、有り得ない話ではないのです。
何十年に一回あるかないかの相続税。年間全国平均で言えばどの程度の資産家がどの程度亡くなるかも、徴税側は皮算用ができているのかも知れません。しかし、年々増大する社会補償費を賄うには、確実性に欠けるように思います。
スウェーデンはその後、2007年に富裕税も廃止しましたが、大村大次郎氏の近著(『相続税を払う奴はバカ!』2018. 9刊、ビジネス社)では、そのための一章を割いて、むしろ日本では富裕税を創設すべきと提唱しています。
詳しくは著書に譲りますが、筆者は冒頭に挙げた「身代金や相続税の分割払い」に相当するかもな、と前向きに捉えました。
・相続税1000万円を、被相続人の死亡10ヵ月後に耳を揃えて払え。
・富裕税100万を10年掛けて払えば、相続税は免除。
のどちらがいいかは、負担感から考えれば自明でしょう。もし毎年100万円が、13年に延びようと(3割増し)、一括1000万円よりは遣り繰りしやすいような気もします。
格差がますます広がる、と言われそうですが、世の中は学者さんの論じる税制などでなく、政治屋さんの目先の帳尻合わせで間に合わせ的に政策が進められる傾向があります。街中のコンビニで外国人が増え、我々一般市民にも人手不足が実感されてきていますが、少子化の問題などは20年も30年もかけて成果が現れるような対策なのに、何にも手を打たず、付け焼き刃的に外国人の受け入れ枠を増やして済まそうとする。
・どうせ人口減になってる。待機児童問題はその内収まる、放っておけ。
・年寄りは比率的に投票してくれるからちゃんとご機嫌を取っておこう。
・低所得者からは取れないが、大企業は税を払ってくれるから優遇する。
・それでも、言った手前、後には退けないから消費増税は必ず実施する。
・いや公約よりアメリカから戦闘機を買うことの方が優先するから実行。
とでも受け取れるような対応が見え隠れする、今の政府や国の動きを見ていると、相続税制の「増税はしたけれど実効性は?」という観点において、本当に効果を上げているのかね? と首を傾げたくなります。
外国人が流入し、雑多な人種が生活し始めると、子どもの通う学校での外国語対応や、文化・習慣の違いへの理解など、よく言えば草の根の国際交流が進み、悪く言えば自治体や公共施設での負担が増えます。
経済界・産業界の要請を鵜呑み的に政府は政策を進めますが、じっくり少子化の問題に対処することと、急場凌ぎ的に外国人を受入れて後からさまざまな対応に莫大な費用がかかるのと、どちらが「お得」なのか。
もちろん筆者が論じるべきことでもないので、この辺で筆を擱きます。
公開日:2019年1月10日
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