『不動産経営博士 』の情報誌 大家倶楽部 特集
災害による被害が起きてしまった時の対応方法について
台風による被害!
家主は入居者に対し損害賠償責任を負うか?
- 賃貸住宅の自然災害トラブルの判例や修繕義務 -

近年、異常気象などで集中豪雨・洪水など大きな自然災害が各地で被害をもたらしています。被害に遭われた方々につきましては、心よりお見舞い申し上げます。
さて、集中豪雨や台風などの自然災害により、入居者に漏水等の損害が生じた場合、家主(賃貸人)は、損害賠償責任を負うのでしょうか?
自然災害なんだから、負わないんじゃないかと思われるかもしれません。
いいえ、それは誤解です。事案によっては、賃貸人が損害賠償責任を負わされる場合があります。
今回は、集中豪雨や台風などの自然災害による、賃貸人の入居者に対する損害賠償責任について解説させていただきます。
賃貸人の損害賠償責任を認めた裁判例
東京地裁平成28年11月16日判決は、台風の接近に伴う短時間の豪雨により、マンホール内の水かさが増し、水が排水管を通って排水枡に逆流した結果、逆流した水が、地下店舗内に溢れ、床が冠水した事故につき、賃貸人の損害賠償責任を認めています。
当該店舗では、約3年間に漏水や浸水が少なくとも11回にわたって発生し、ときにはカウンターキッチンを使用できないほどの被害を生じることもありました。そのため、汚水の漏水や浸水といった飲食店としての衛生面において不適切な状態が継続し、将来的にガス漏れ等の可能性も生じうるような、安全面においても問題のある状況であったと評価することができるのです。
賃貸人は、ジョウロを設置するなどの応急措置は行っているものの、このような状況に対し、抜本的な修繕や漏水等の防止措置は全く講じていませんでした。
つまり、上記漏水等が継続する状態を放置していたものといわざるを得ず、賃貸人には、賃貸借契約上の使用収益させる義務ないし修繕義務違反があると判示したのです。
賃貸人の損害賠償責任を否定した裁判例
一方、東京地裁平成27年3月25日判決は、入居者が賃貸人に対し、台風がもたらした大雨によって貸室内への浸水が発生し、本件貸室内にあった入居者所有のパソコン等が濡れ、貸室を事務所として使用できなかったことなどにより損害を被ったとして、損害賠償請求した事案につき、請求を棄却しています。

当該判決では、浸水事故の際、排水口が詰まってしまったことによってバルコニーに大量の雨水が溜まっていたとの事実が認められています。
また、排水口が詰まってしまった原因は、ビニール状の物によって塞がれていたことが一因であると推測されると判示しました。その上で、
■ バルコニーを含む貸室について、通常、直接的に管理・支配しているのは、入居者であって、賃貸人ではないこと
■ 賃貸人は間接的に貸室を管理・支配しているにすぎない。よって、賃貸人に対し、日常的にバルコニーを清掃するなど、排水口が塞がらないような措置をとるよう求めることまではできないこと
■ 排水口が塞がることがなければ、相当程度大きな容積があるバルコニーに貸室内に流入するほどの水位に達するまで大量の雨水が溜まることはなかったものと認められる。そのため、浸水事故発生以前に、そのような事態が発生したと認めるに足りる証拠もないことに照らし、浸水事故の原因となった大量の雨水の貯留は、通常起こるとは考え難い事態であったことが推測できること
などを認定しました。
したがって、バルコニーを間接的に管理・支配していたにすぎない賃貸人において、その発生を防止すべき具体的な義務を負っていたと認めることはできず、浸水事故につき、債務不履行及び不法行為上の過失があったと認めることはできないと判示しました。
特約で修繕義務を免れることはできる?
このように、賃貸人に修繕義務違反があり、それが原因で入居者に台風による漏水被害が生じたと認められる場合には、賃貸人に損害賠償責任が生じます。
では、はじめから賃貸借契約書で、修繕義務はすべて、入居者(賃借人)が負う旨を定めておけば、賃貸人は、損害賠償責任を免れるのではないかとお考えになるかもしれません。
しかし、そのような特約は、効力が否定される場合があります。

東京地裁昭和61年7月28日判決は、特約による賃借人が負担する修繕義務の内容は、通常生ずる破損の補修即ちいわゆる小修繕であり、賃借物の大修理・大修繕は含まれず、ましてや通常予想できないような天災等による甚大な被害に対する修繕は含まれないとしています。
そして、通常予想できない台風の豪雨によって生じた擁壁の亀裂、崩壊の危険を避けるため賃借人が建物を取壊して転居を余儀なくされた場合には、たとえ土留の管理を賃借人の責任とする旨の特約のあるときといえども、擁壁の改修補強等の措置をとらないまま放置した賃貸人は、建物取壊し等によって賃借人に生じた損害を賠償しなければならないと判示しています。
また、原状回復に関する裁判例についても、特約の効力を否定する判決が出ています。
名古屋地裁平成2年10月19日判決は、賃貸借契約書に「賃借人は、故意過失を問わず、物件の損耗・汚損等の損害について、賃貸人に対し賠償すべき義務を負う」と条項があったケースでした。
このケースでも、帰責事由の有無に関わらず賃借人が損害賠償責任を負うべき旨を定めたものとするならば、その限度で、当該賠償特約の効力は否定されるべきであると判示しています。

不可抗力であるという抗弁は認められるか?
前代未聞の勢力のある台風や、数十年に一度の大型台風で、たとえ賃貸人が修繕義務を履行していたとしたとしても、被害の発生を避けようがなく、被害が生じたと認められるような場合もあります。
そういった場合には、賃貸人の修繕義務違反と被害との間に相当因果関係があるとはいえず、損害賠償責任は否定されるでしょう。
しかし、しばしば発生することが想定される程度の台風であれば、不可抗力の主張が認められるのは難しいでしょう。
たとえば、これは賃貸人の賃貸借契約に基づく損害賠償責任を追及する事案ではありませんが、強風の日に、マンションから落下した窓ガラスの破片が路上にいた通行人の肩に当たり負傷したとして、工作物責任等に基づき損害賠償請求された事案です。
東京地裁平成29年1月20日判決は、事故が台風という自然力との競合によって生じたこと、そして当該台風が全国的に災害をもたらした強い勢力を持つものであったことは認められるが、台風自体は毎年のように上陸するものであるとしました。
加えて、強風が想定を超えるような程度のものとまでは評価しがたく(風速や雨量で観測記録を更新した地域もあるが、その多くはあくまでその月としての極値を更新したというものである)、少なくとも施錠忘れという瑕疵ないし過失との関係で、被告の損害賠償責任を減ずる必要があるとまでは認められないとして損害賠償請求を認めています。


お答えいただいたのは…
弁護士 伊澤 大輔
虎ノ門桜法律事務所
〒105-0001
東京都港区虎ノ門3-22-1虎ノ門桜ビル6F
TEL:0066-96-8062-7113
HP:https://www.izawa-law.com/
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